無料相談 受付中 ホームに
戻る

VMIコラム

JP2023・印刷DX展ダイジェスト

来る5月18日・19日にインテックス大阪にてJP2023・印刷DX展が開催された。2日目はあいにくの雨となったが、公式発表で昨年の2倍弱、約12000名という多くの来場者を迎え、熱気のある機材展となった。

 

本展示会は、3年前にデジタル化の流れを受けてDX展の名称を冠し、その方向性を明確化してきた。本年で3回目のDX展では、小規模の印刷関連事業者にも受け入れ可能なDX関連のシステムやソリューションが具体的な形に出展され、会場では様々なデモンストレーションが行われた。一方、JP展のもう一つの特徴として、メーカーだけでなく、多くの印刷関連業、すなわち作り手側の企業が出展する展示会になっていることが挙げられる。印刷関連業の前向きな取り組みや商材、営業手法などを実際に感じることができ、システム展示に留まらない多彩な出展が見られた。JP2023・印刷DX展のメインテーマである「変わる需要・変える供給」をキーワードとして、ダイジェストをお届けする。

 

変わる需要~市場から見たJP展

印刷産業の市場規模は、ここ20年余り縮小を続けており、マーケットからの印刷物に対する需要が大きく変化していることは明確である。印刷関連業は製造業の一角に位置付けられ、古くから、良い印刷物をより安価に製造することを求められ、永きにわたりこれを追求してきた。

 

しかしながら近年、印刷物はペーパーメディアと呼ばれるようになった。メディアとはmedium(ミディアム)から派生した言葉であり、中間に入るものとされている。つまり、ペーパーメディアとは、最終製品ではなく、何かと何かをつなげるために中間に位置付けられる媒体である。売り手と買い手をつなげる販促媒体であったり、通知物やサインなどによる情報の伝達、発注企業のブランドイメージの向上、包装や運送などに求められる機能など明確な役割が求められるとともに、その効果が問われるようになっている。マーケットや印刷物を発注するブランドオーナーなどは、印刷物に費用を払っているのではなく、ペーパーメディアが生み出す効果に費用を払っているのである。

 

このように需要が変化する中で、印刷関連業の役割は、単に印刷物を製造するということではなく、発注側が求める効果を上げられる印刷物を製造することが求められ、そのビジネスのあり方を変える必要がある。さらに、発注側に対して何を提供できる企業なのかを明確に示すことも重要である。印刷需要が減少する中で、顧客から選ばれる企業になることは、受注を獲得するために重要な要素であり、印刷関連業は、自社の強みと差別化のポイントを明確に伝えられることが求められている。

 

JP2023・印刷DX展では、多くの印刷関連業の出展があるが、その多くが、自社の強みを前面に打ち出した出展を行い、販促分野では、会場内で開催されている販促アイディアグランプリにエントリーする35社の出展社が中心となり、集客・販売を支援する様々なセールスプロモーションツールが展示された。特に近年注目を集める環境面に対する出展は多く、プラスチック素材から紙への置き換えや、これを実現する薄紙への印刷技術などの展示は興味深いものであった。

 

ペーパルは食品廃棄物をアップサイクルしたフードロスペーパーを自社開発しており注目を集める。また、シール・ラベル分野ではサステナビリティ製品化を進める大阪シーリング印刷が多彩な商品を展示するとともに、薄紙への印刷では、やまとカーボン社のノーカーボン紙を利用した知育印刷物はユニークであり、西村謄写堂では展示会場にオフセット印刷機を設置し薄紙印刷のデモンストレーションが行われた。

 

特殊印刷分野では、アシヤ印刷の特殊加工によるDMや特殊ファイル、鬼頭印刷の特殊印刷・特殊加工や、長瀬印刷が手掛ける箔押し加工を利用した偽造防止技術など、従来の印刷物に新たな質感や機能、その結果として効果を高めるための様々な技術と製品が紹介された。

 

小ロット印刷へのニーズに応えるのはオンラインでの受発注を紙器パッケージや紙袋など厚紙印刷の分野で先導する共進ペイパー&パッケージのハコプレ、多彩な別注封筒を紹介する緑屋紙工なども注目されるブースとなった。

 

変える供給~作り手側から見たJP展

視点を供給側・製造側に移すと、デジタル化を足が掛かりに、自動化、省人化・省力化やDX化など、様々な製造の仕組みが提案されてきた。昨年のIGAS2022でもスマートファクトリーゾーンと呼ばれる自動化の仕組みが、プリプレス、プレス、ポストプレスまで複数のメーカーの共同でデモンストレーションされたことは記憶に新しい。

 

JP2023・印刷DX展では、こうした自動化フローに関するソリューションが、小規模印刷事業者向けにダウンサイジングした形でデモンストレーションされる。大規模な投資を行うことなく、製造・供給の仕組みを効率化できる可能性があり、多くの印刷関連業に見ていただきたい出展内容である。

 

クイックス、佐川印刷、正文舎とホリゾン、リコージャパン、JSPIRITSの6社で構成される印刷革新会は、昨年より自動化構想のソリューションについて議論とシステム化を進めてきたが、JP展の会場において初めて、受注からデータ処理、印刷、加工、配送まで実機を利用したデモンストレーションを行う。このソリューションには大きく2つの特徴がある。一つはスモールスタートが可能なパッケージになっていること、そしてもう一つは、業務の損益を可視化している点である。自動化や省力化は手段であり、目的ではなく、フローを変えることでどの程度損益が向上するのかを掴むことで供給側のメリットを明確化することが可能となる。印刷革新会では、自動化の結果として社員が幸せになることを目指しており、本来の意味で印刷関連業の将来の供給形態を見ることができたものと思われる。

 

メーカー横断型の自動化ソリューションでは、コニカミノルタとホリゾンも興味深いデモンストレーションを行う。コニカミノルタのマーケティングオートメーションツールにより、印刷ジョブが計画的に作成され、印刷後の刷本をAGVによりホリゾンブースに自動搬送、製本加工へとつなげていくものである。製造の自動化だけでなく、印刷会社が顧客向けにマーケティングソリューションを提供する一連の流れを見ることができた。販促分野での新たなビジネス展開へとつながる仕組みとなっている。

 

また、保有する既存の製造フローを活かした形で新たなステージへの変革を後押しする出展も多い。富士フイルムグラフィックソリューションズは、印刷会社の現状分析を行った上で、デジタル印刷機を効率的に活用して最適生産の提案を行うコンサルティングサービスを、SCREEN GPジャパンは、様々なプリプレスツールの間をつなぐミドルウェアを提供することで、既存の保有システムを活かした効率化のソリューションを中心として多くのツールを出展した。小森コーポレーションはオフセット印刷機の自動化を進めている。

 

各プロセスごとの効率化に関わる出展では、オンデオマのクラウド型可変印刷データの生成ツール、エイシスの名刺受発注システム、ダックエンジニアリングやシリウスビジョンの画像検査装置なども注目された。

 

JP2023・印刷DX展では、印刷産業を取り巻く様々な環境変化に対して、中小印刷関連業が取り組む具体的な内容のヒントが提供された貴重な場になったものと考えられる。展示会の詳報については、機会を見ながら本コラムでも紹介したい。